建設業法の知識

建設業者と一人親方とのあぶない関係(社会保険編)

建設業者で働いてもらっている職人さんが「一人親方」である場合、注意が必要かもしれません。

通常、一人親方は「事業者」として事業を行う人だと考えられています。

しかし、働き方によっては「労働者」と判断されることがあります。

従業員(正社員)とみなされるということです。

 

これによって、次の2つのことが起こってしまいます。

①労働基準法(残業時間・残業手当、有給休暇の付与、解雇が難しいなど)が適用される

②社会保険料を2年間さかのぼって納付しなければならなくなる

 

さらに「常用外注である一人親方」の場合には、次の影響が出ることも考えられます。

③税金面で、消費税と源泉所得税が追徴課税される

※追徴課税は、脱税とされれば最高7年分さかのぼります。

 

「〇〇社長もやっとると言っとったし、一人親方は社会保険に入れんでも大丈夫じゃろ」

と、あまり深く考えずにいると、大きな代償を払うことにもなりかねません。

この建設業者と一人親方のあぶない関係について、社会保険編と税金編の2回に分けて確認します。

今回は、社会保険編です。

それでは始めましょう。

 

税金編はこちらからどうぞ

👉建設業者と一人親方とのあぶない関係(税金編)

 

建設業許可などをくわしく解説しています。

👉建設業者が社会保険に加入することは義務なのか?

👉決算変更届(決算報告)とは|建設業許可

👉許可の有効期限と更新申請について|建設業許可

 

一人親方とは

「事業者」である一人親方

一人親方とは、労働者を雇用せず本人かその家族だけで建設業を行っている人のことをいいます。

建設業だけでなく、林業や漁業、タクシードライバー、置き薬の販売者などにも見られます。

建設業の一人親方といえば、伝統的には次のような段階を踏んでいくものです。

見習い(親方に弟子入り)

一人親方(親方から独立)

親方(弟子を取る)

 

大工の世界では、親方のことを「棟梁」と呼びます。

つまり一人親方といえば、ある業種の工事に熟練した技術者のことを意味していました。

このような一人親方は、次のような特徴を持っています。

ア 請負金額を自分で見積もり、工事契約を結んでいる

イ 受け取った工事金は事業所得として確定申告している

ウ 一人親方の労災保険に「特別加入」している

エ 複数の業者から工事を請けて仕事をしている

オ 自分の営業所や作業所などの拠点と屋号を持っている

カ 建設業の許可を受けている

これらの特徴をもつ一人親方は、それぞれが一国一城の主です。

ですから、それぞれ「事業者」とみなされます。

 

一人親方とはいえない「労働者」

しかし、最近では一人親方とはいえないような一人親方が登場するようになっているようです。

事業者というよりもより労働者(従業員)に近い働き方をする職人です。

従業員として雇うと、建設業者にはさまざまな制約や負担が発生します。

・残業時間の制限や残業手当の支払い、有給休暇の付与、最低賃金などさまざまな規制

 

・社会保険料の事業主負担が発生する

 

・かんたんに解雇することができない

 

・安全配慮義務(従業員が安全で健康に働けるように配慮する義務)が課せられる

職人が労働者ではなく一人親方であれば、これらの制約や負担は必要ありません。

 

また、建設業では社会保険未加入対策が少なからず影響していると思われます。

建設業者としてやっていくには、社会保険に入らざるを得ない状況です。

しかし、できるだけ保険料の負担は少なくしたい。

その結果、これを避ける目的で、一人親方に切り替える建設業者が増える傾向にあります。

 

つまり、ひとくちに一人親方といっても、次の2つに分けることができます。

ⅰ)請負や委託契約のもとづく「事業者」としての一人親方・・・「外注費」

ⅱ)本来は従業員として雇用されるべき「労働者」である場合・・・「給与」

どちらになるかによって、社会保険や税金面にかぎらず、建設業法においても大きな違いが生じることになります。

 

一人親方であるかどうかの判断基準

では、「事業者」になるか「労働者」になるかの判断はどんな基準で行うのでしょうか。

 

残念ながら、今の段階でははっきりとした判断基準は決められていません。

「これとこれを満たせば一人親方になります」という明確なものが現状ではありません。

ただし、判断の参考として国交省から「働き方チェックシート」が公表されています。

どちらに該当するのかは総合的に判断されますので、☑が多くついた方になるとは限りません。

なお、疑問点がある方は、無料で社会保険労務士会に電話相談をすることができます。

 

どんな保険に入らなければならないのか

では、「事業者」としての一人親方と「労働者」に該当する者は、それぞれどんな保険に入る必要があるのでしょうか。

 

一人親方(事業者)が入るべき保険

60歳未満・・・国民健康保険(建設国保)/国民年金(各市区町村)

60歳以上・・・国民健康保険(建設国保)

※労災保険・・・一人親方用の特別加入

 

「労働者」が入るべき保険

労働者とみなされた場合、企業の従業員として社会保険への加入が必要です。

ただし、小規模の個人事業所は除かれています。

 

(法人・5人以上雇用している個人事業所)

70歳未満・・・健康保険(建設国保)/厚生年金保険/雇用保険

70歳以上・・・健康保険(建設国保)

※労災保険・・・元請業者が一括で加入

 

(1~4人雇用している個人事業所)

60歳未満・・・国民健康保険(建設国保)/国民年金/雇用保険

60歳以上・・・国民健康保険(建設国保)/雇用保険

※労災保険・・・元請業者が一括で加入

 

建設業の社会保険未加入対策と一人親方

平成24年頃から、国(国交省)は社会保険未加入対策にとてもチカラを入れています。

この対策で対象となる社会保険とは、雇用保険・健康保険・厚生年金保険の3保険をいいます。

※労災保険は、建設業では元請業者が一括で加入しますので、未加入対策からは除かれています。

 

3保険の企業別の加入割合は、平成23年に84%だったものが、令和元年には98%になっています。

これを労働者別にみると、平成23年は57%でしたが、令和元年には88%まで上昇しています。

出典:国土交通省ホームページ

 

国が気にしているのは、「労働者(従業員)」である一人親方が増えていることです。

さきほどの調査結果で令和元年には、企業別の加入割合は98%なのに対し、労働者別は88%までしか上昇していません。

この10%の差の中に、労働者である一人親方が含まれていると考えているようです。

 

別の資料で「一人親方に関する調査結果」というものがあります。

この5年間で一人親方が増加していると回答した建設業者が26%に達しています。

また、従業員9人以下の業者では、職人のうち半分近くが一人親方であると回答しています。

 

国は次のように考えています。

・企業の都合で一人親方とすることは脱法行為である。

※「脱法」とは、「違法」ではなく法の網をくぐりぬけることをいいます。

 

・このような場合には社会保険に加入させ保険料の追納や処分が必要である。

 

・建設業の労働環境を良くするために進められている社会保険未加入対策に逆行することになり、関係法令に違反する違法行為だと考えています。

 

このため、社会保険への加入や規制を逃れるために一人親方を利用する動きに対して、対策を検討しています。

・職種ごとの一人親方化の実態の把握

 

・偽装請負の疑いがある一人親方の基準の明確化

 

・規制のがれを目的とした一人親方化の抑制対策

 

対策のため検討会を設置して、令和3年春をめどに対策を取りまとめる予定です。

 

一人親方が労働者とされたらどうなる?

もし、一人親方として使っていた職人が、実態は労働者だと判断されたらどうなるのでしょうか。

まずは建設業許可を監督する役所から、社会保険担当部局に通報されます。

社会保険担当部局は、この手の脱法行為に特に目を光らせています。

・年金事務所などの調査が入り、2年分の社会保険料と延滞金がさかのぼって徴収されます。

 

・悪質であるときは、懲役や罰金などの刑罰を受けることもあります。

 

・労働関係法令で罰則を受けると、建設業法で営業停止などの監督処分を受けることもあります。

 

さらには、税金についても影響することがあります。

・場合によっては、消費税・源泉所得税などの追徴課税が行われることになります。

 

このように大きな影響があることをご理解ください。

 

法定福利費を内訳明示した見積書の活用

国は、社会保険に加入した建設業者の保険料については、発注者が負担すべきものだと考えています。

ですから、下請業者は保険料を確保するために、元請業者に保険料相当を請求できることとしています。

具体的には、法定福利費(社会保険料の事業主負担)を見積書に内訳明示することができます。

元請業者は、この法定福利費の記載を尊重する必要があり、一方的に減額したり削減することはできないとされています。

くわしくはこちらをご覧ください。👉法定福利費を見積書に記載できる?|建設業法

 

まとめ

国は、社会保険への加入を、建設業許可の要件とすることを決めました。

今後、建設業における社会保険未加入対策はさらに進められていくと考えられます。

 

また、建設業以外でも保険料回避のための「従業員の個人事業主化」が行われています。

厚生労働省が中心となって、このような動きに対して取り締まりを強化しています。

 

ですから、職人を一人親方として使うのであれば、事業者性を証明できる証拠や事実をいかに多く積み上げておけるかがカギになります。

一人親方本人が納得し、実態が伴っているのであれば、何も怖いことはありません。

一方、労働者に近いビミョーな状態であるのに、無理に一人親方にすることは避けるべきです。

代償が大きすぎます。

 

今の若い世代は、働き方について安定を求める傾向があります。

若年者を採用するには、社会保険の完備が欠かせません。

建設業者は、社会保険について前向きに考える必要があるようです。

 

税金編はこちらからどうぞ

👉建設業者と一人親方とのあぶない関係(税金編)

 

ほかにも建設業許可について解説しています。

👉岡山県で建設業許可を取る人が読む開業完全ガイド

👉建設業法の処分・罰則を理解する完全ガイド

👉工事経歴書の書き方(決算変更届)|建設業許可

👉主任技術者と監理技術者の違い|建設業法