建設業法の知識

法定福利費を見積書に記載できる?|建設業法

建設業者の方はよくご存じの通り、建設業では社会保険の未加入対策がどんどん強化されています。

平成29年から、未加入業者を下請にしないこと、未加入作業員は現場入場を禁止にすべきこととされています。

社会保険に未加入の業者は、建設業で仕事ができなくなりつつあります。

 

社会保険に加入すると、保険料の負担が発生します。

社会保険料のうち、事業者が負担する保険料を「法定福利費」といいます。

この法定福利費は、工事代金から確保する必要があります。

そこで国交省は、下請が元請に法定福利費を請求できるようにしています。

具体的には、工事の見積書に法定福利費を記載した場合、元請業者がこれを配慮するように求めています。

 

現実には、法定福利費を別途請求できるのか?という問題があります。

しかし、きっちり支払ってくれる元請さんがあるのも事実です。

ですから、見積書の書き方は、マスターしておきたいところです。

 

今回は、「法定福利費を内訳明示した見積書」の書き方や作成手順を中心に確認します。

見積書のかんたんな計算方法もご紹介します。

ぜひ最後までお付き合いください。

 

建設業許可などいろいろ解説しています。ぜひ。

👉建設業者が社会保険に加入することは義務なのか?

👉主任技術者・監理技術者の資格要件とは|建設業法

👉決算変更届(決算報告)とは|建設業許可

👉許可の有効期限と更新申請について|建設業許可

 

法定福利費を内訳明示した見積書とは

建設業では従来、トン単価や㎡単価による見積りが多くありました。

計算が簡単でいいのですが、法定福利費が入っているのかよくわからない状況でした。

そこで総額の見積りではなく、法定福利費を内訳明示して見積金額を計上することとしました。

このように作られたものを「法定福利費を内訳明示した見積書」と呼びます。

 

この見積書は下請業者(2次以降も含む)が法定福利費を確保するためのものです。

ですから、元下間で、3次→2次、2次→1次、1次→元請に提出される見積書が対象です。

また、公共工事だけではなく民間工事にも適用されます。

※国交省は、施主(発注者)に法定福利費を負担するよう求めています。

 

法定福利費とは

法定福利費とは、法律上の支払い義務がある社会保険料の事業主負担分をいいます。

 

法定福利費に含まれる社会保険の種類

法定福利費には、次の社会保険が含まれています。

・健康保険(医療保険)・・・健康保険料/介護保険料

 

・厚生年金保険(老後の年金)・・・厚生年金保険料/子ども・子育て拠出金

 

・雇用保険(失業手当や助成金)・・・雇用保険料

 

・労災保険(労働災害の補償)・・・労災保険料

※雇用保険を労災保険をあわせて「労働保険」と呼びます。

 

社会保険料の事業主負担はどのくらい?

では、賃金(給料)に対して、どのくらい保険料を負担することになっているのか確認しましょう。

種類 保険料率 本人負担分 事業主負担分
健康保険料 10.17% 5.085% 5.085%
介護保険料 1.79% 0.895% 0.895%
厚生年金保険料 18.3% 9.15% 9.15%
子ども・子育て拠出金 0.36% 0.36%
雇用保険料 1.2% 0.4% 0.8%
合計 31.82% 15.53% 16.29%

※健康保険料率は、令和2年の協会けんぽ(岡山)を使っています。

 

表のとおり、事業主負担の合計は、賃金の約16%です。

労使合わせた社会保険料負担率は約32%です。

 

法定福利費の計算方法

法定福利費の計算方法は次のとおりです。

法定福利費 = 労務費 × 対象となる保険の料率(事業主負担)

対象となる保険の料率は、岡山県の場合、さきほどの16.29%となります。

 

「法定福利費を内訳明示した見積書」の作成手順

では、「法定福利費を内訳明示した見積書」の作成手順を確認します。

1つの準備と3つの手順で構成されます。

準備:見積書に記載する内訳の項目を確認します。

手順1・・・工事ごとの労務費を算出する

手順2・・・労務費をもとに法定福利費を算出する

手順3・・・見積書を作成する

 

準備:見積書に記載する内訳の項目を確認する

「材料費」「労務費」「経費(一般管理費等)」を、業種や企業の実情に合わせて算出します。

出典:『法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順(簡易版)』国土交通省

 

経費とは

経費には、会社を運営するための費用が入っていて、次の2つからなっています。

ⅰ)現場経費・・・現場管理者の人件費、交通費、火災・賠償・労災保険料、近隣対策費など

 

ⅱ)一般管理費・・・役員・営業・総務の人件費、事務所の家賃、光熱費、広告宣伝費など

経費の率は、工事の規模や企業の状況によって変わりますが、5%から20%の間が多いようです。

 

手順1:工事ごとの労務費を算出する

はじめに労務費を算出します。

労務費を計算するには、つぎの3つの方法があります。

ⅰ)作業ごとに人工(にんく)数と平均賃金で計算する方法

 

ⅱ)歩掛り(ぶがかり)を使って人工数を計算する方法

 

ⅲ)平均的な労務費の比率を使って計算する方法

1番簡単に計算できるのは、ⅲ)の平均的な労務費の比率を使う方法です。

ⅰ)とⅱ)は、比較的労務費を正確に計算できますが、かなり手間がかかります。

 

ⅰ)作業ごとに人工数と平均賃金で計算する方法

作業ごとに人工数がわかる場合、作業ごとの人工数に平均賃金日額を掛けたものを合計して算出します。

ⅱ)歩掛りを使って人工数を計算する方法

歩掛りとは、Aという作業を行うときの工事に必要な作業日数を数値化したものをいいます。

工事数量に標準的な歩掛りを用いて人工数を計算し、単価に応じて労務費を算出します。

工事数量(台)× 歩掛り(人/台)= 所要人工数

所要人工数 × 平均日額(賃金)= 労務費

 

LED照明器具1台の取付作業に1時間30分かかる場合、1日8時間労働だと人工数は次のとおりです。

(1人 × 1.5時間)÷ 8時間 =0.18

LED照明器具を10台取付するときには、

10台 × 0.18 = 1.8人工

1.8人工が必要となります。

LED照明器具の取付作業者の平均賃金日額が20,000円の場合

1.8人工 × 20,000円 = 36,000円

労務費は36,000円です。

 

歩掛りは、作業の種類によって長さ(m)や面積(㎡)を単位として数値が決められています。

標準的な歩掛りはこちらを参照ください。

👉公共建築工事標準単価積算基準:国土交通省

また、各専門工事団体から「標準見積書」や作成手順が公表されています。

👉各団体の標準見積書式・連絡先

 

ⅲ)平均的な労務費の比率を用いて計算

3つの計算方法の中で、1番簡単に計算することができます。

まずは工事価格を見積もります。

そして、工事価格に平均的な労務費比率を乗じて計算します。

工事価格 × 平均的な労務費比率 = 労務費

ここで問題となるのが「労務費比率」です。

原則は、それぞれの業者が過去の経験や実績などから決めることになっています。

それが難しいときは、労災保険料の計算に使用する「労務費率」を使う方法があります。

出典:厚生労働省ホームページ

 

手順2:労務費をもとに法定福利費を算出する

労務費が計算できたら、これに保険料率を乗じて、法定福利費を算出します。

先ほどの計算式で計算します。

法定福利費 = 労務費 × 対象となる保険の料率(事業主負担)

※なお、それぞれの保険料率の調べ方は、こちらを参照ください。

雇用保険・・・👉「雇用保険料率について」:厚生労働省HP

健康保険・介護保険料・・・👉「都道府県毎の保険料額表」:全国健康保険協会HP

厚生年金保険・子ども・子育て拠出金・・・👉厚生年金保険料額表:日本年金機構HP

 

手順3:見積書を作成する

労務費比率を用いた場合

1番簡単な方法である「平均的な労務費の比率を用いた計算」の場合、次の記載となります。

 

①見積もった工事価格を記載します。・・・表中の(ア)

②「工事価格 ×労務費比率 × 保険料率(事業主負担分)= 法定福利費」の計算過程を記載します。・・・表中の(イ)

③消費税の計算過程を記載します。・・・表中の(ウ)

※法定福利費も消費税の対象になります。

④(ア)+(イ)+(ウ)の合計を「見積金額」欄に記載します。

※「平均的な保険料率」には、自社のものを入れるようにしてください。

 

人工数や歩掛りを用いた場合

「作業ごとに人工数と平均賃金で計算する方法」や「歩掛りを使って人工数を計算する方法」の見積書の記載例はこちらです。

算定の根拠が明確になりますので見積書の信頼度は上がります。

ただし、相当手間がかかります。

 

まとめ

「社会保険未加入対策」を進めるため、見積書に法定福利費を記載することが認められています。

建前としては、元請企業はこの見積書を尊重する必要があります。

法定福利費を一方的に削減したり、減額調整すれば、建設業法の「不当に低い請負代金の禁止」に違反するおそれがあります。

元請さんに「それ建設業法違反です!」とは言えないですが、ぜひ、値段交渉に上手く使ってください。

 

手順3で紹介した「平均的な労務費の比率を用いた」見積書の書き方は、ぜひマスターしてください。

工事価格から法定福利費を計算し、合計したものに消費税をかけるだけです。

もし、元請さんから見積書に法定福利費の記載を要請されたら、あわてずにこの方法を思い出してください。

また、これから「法定福利費を内訳明示した見積書」を導入される業者の方も、ぜひ参考にしてください。

 

ほかにも建設業許可について解説しています。

👉岡山県で建設業許可を取る人が読む開業完全ガイド

👉建設業者の代表者の変更|建設業許可

👉建設業法の処分・罰則を理解する完全ガイド

👉軽微な工事とは(許可が不要な工事)|建設業許可